大動脈の病気について

疾患の説明

A.大動脈瘤

大動脈瘤は大動脈壁の一部が全周性、または局所性に拡大した状態です。大動脈瘤は加齢や動脈硬化を背景とした大動脈壁の変性によるものが多いと言われています。 つまり、年齢とともに大動脈瘤の可能性は高くなります。 動脈硬化をすすめる原因としては喫煙、高血圧、糖尿病、高コレステロール血症などの生活習慣病を基礎に持つことが多いと言われています。






 

B.大動脈解離

 大動脈解離は大動脈壁が剥がれて(解離して)、大動脈の走行に沿って、2つの腔になった状態と定義され、多くの場合は激烈な症状を呈する。裂け目(tear)の位置によって治療方法が大きく異なります。
 上行大動脈に解離があるものをStanford A型、上行大動脈に解離がないものをStanford B型と分類されます。
また、発症から早期(2週間以内)を急性期、2週間を超えて3ヵ月までを亜急性期、3ヵ月を超えた場合を慢性期とします。
 急性A型大動脈解離の多くは致命的な病態であり、緊急手術を必要とすることが多いです。
また、急性B型大動脈解離の多くは急性期において入院加療が必要なことが多いですが、慢性期において手術加療などの侵襲的な治療を必要とすることが多いです。

 当センターでは発症時期、病態において必要な治療の多くのオプションを有しております。お気軽にご相談ください。

C.特殊な大動脈疾患

1.遺伝性大動脈疾患
 大動脈瘤・解離は高齢者に発症することが多いです。しかし、大動脈瘤・解離は若年でも発症することが知られており、そのような場合には家族歴が認められることが多いです。Marfan症候群に代表される特定遺伝子が確認された疾患群は若年発症の大動脈疾患の原因としてよく知られています。
外見上の高身長、家族歴があればMarfan症候群が疑われます。
 遺伝子異常は大動脈壁中膜に異常を引き起こすことにより、大動脈疾患を発症させます。中膜病変の程度は大動脈の脆弱性を規定するため、発症年齢の規定因子の一つであるとされています。
 より早期の手術介入を推奨されています。また、大動脈基部拡大を伴うことが多く大動脈基部置換術を必要とすることが多いです。最近では自己弁温存手技の有用性を報告されており、遠隔成績においても安全な手術手技を確認することが重要です。
2.大動脈二尖弁に伴うaortopathy
 大動脈二尖弁(BAV)に伴う上行大動脈(基部~弓部)の拡大や瘤化は「bicuspid aortopathy」と呼ばれ、BAV患者の約4割にみらます。このbicuspid aortopathyで遺伝性要因が判明したものは全体の数%にすぎず、多くは血流ストレスが影響した多因子疾患と考えられています。4D-MRIにより血流の方向や速度が可視化され、大動脈壁ずり応力が定量的に評価されています。BAVでは正常大動脈と比べて異常な右回りのらせん血流が上行大動脈に生じ、血流の軸が大きく傾くことで大動脈壁ずり応力が増加し、大動脈拡大に影響することが示唆されました。
 BAVでは大動脈弁置換術後に上行大動脈の拡大が早く、解離の発生リスクが高まるためbicuspid aortopathyは弁置換との同時手術においてはより早期の介入が推奨されています。
3.大動脈炎症候群・高安動脈炎
 Takayasu arteritisと呼ばれ、大動脈の分枝血管の狭窄病変による「脈なし病」と呼称されることもあります。東アジアの若年女性に発症することが多いことが特徴です。典型例では血管内腔の狭窄病変から始まり、大動脈弓部の分岐部から上行する3分枝の血管が侵されやすく、頭部や上肢虚血症状の一因となります。病変は弓部の主要分枝血管、下行大動脈内にも進行します。また、上行大動脈では拡張傾向となり、上行大動脈瘤と大動脈弁閉鎖不全症をきたします。
4.外傷性大動脈損傷
 鈍的外傷による大動脈損傷は急速な減速(交通事故、高所からの墜落)が主な原因であり、90%は大動脈峡部に発生します。多発外傷を伴うことも多く、大動脈峡部や下行大動脈に発生する外傷性大動脈損傷は緊急手術によるステントグラフト治療が推奨されています。
5.感染性大動脈瘤
 感染に起因するすべての大動脈瘤と既存の大動脈瘤に感染が加わったものとを併せて「感染性大動脈瘤」と総称します。必ずしも感染源の同定出来ない場合もあるが、齲歯や尿路感染からの波及や歯周病に由来する動脈硬化の増悪などとされています。背景として高齢化に伴う易感染性の危険因子増加も指摘されています。糖尿病や悪性腫瘍治療,膠原病治療による慢性的免疫機能低下も重要な危険因子です。治療は早期の手術介入が必要であり、大動脈瘤切除による破裂の予防と感染巣を除去することが重要です。
6.大動脈食道瘻・気管支瘻
 大動脈食道瘻(AEF)は比較的まれな疾患であり、予後はきわめて不良です。近年、ステントグラフト内挿術などの血管内治療の増加に伴い二次性AEFが増加してきており、処置後も定期的な経過観察が必要とされています。


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